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第4話

親子で話す性教育

 思春期は、一生のなかでもこころとからだに大きな変化の起こる時期です。

 行動範囲が急速に増え、人間関係が複雑になる一方で、さまざまなトラブル(困りごと)やアクシデント(突然の出来事や病気)にあう可能性も増えます。

 それらを避けるにはどうしたらよいのか、遭遇した時にはどう対処すればよいのか、家族で話すためのヒントを探ります。

 

●中学生からの深刻な相談

 

 カウンセラーの私が行っていたエイズ電話相談では、中学生からもたくさん相談を受けました。

 内容は、HIV/AIDSの感染経路や流行の広がりなど一般的な知識に関するものもありますが、自分の行為でHIVに感染しているのではないかと深刻に悩んでいるケースもありました。

 電話による相談は直接顔を合わせなくてよいので、HIV/AIDSや性のように、言葉に出しにくい内容が話しやすいという長所があります。

 ただ、その中でも問題だと思ったのは、「まわりに相談できる大人が一人もいない」という声でした。

 性に関する悩みもよく相談されました。

 印象に残っているのは、ある高校生から言われた

「こんなに大事なことなのに、これまで学校でも家でも大人は誰も教えてくれなかった。もっと早く教えてくれていたら、もっと慎重になったのに」

という言葉でした。

 性的な事柄に関心を示すようになる中学生の頃に、家庭や学校で、身近な大人が性について真剣に話すことが、その後のトラブルやアクシデントへの予防とその対応(ケア)にとても大きな力となることを今でも実感しています。

 

●性に関することは恥ずかしさもあって大人からは話しにくい

 

 性行為や感染予防の方法など、私も初めは口にするのをためらいましたが、今では必要があればどこででも話します。

 性に関することは、感情的な面と科学的な面を混同せず、整理すると話しやすくなります。

 そして、何度も口にして慣れることですね。

 大人が「○○のこと?」と率先してストレートに話すと、子どももグッと話しやすくなります。

 息子が小学校6年生のとき、全クラスで性やHIV/AIDSについての授業をさせていただきました。

 子どもたちは、同級生のお母さんが性について話すので、初めはびっくりしたり恥ずかしがっていましたが、最後まで真剣に話を聞いてくれました。

 性について話すときは、子どもも大人と同じだと思いながら話します。

 そして肝心なのはユーモアを忘れないということです。

 

●寝た子を起こす?

 

 性教育をすると、性に対する関心を高め、セックスを奨励するのではないか、とよく聞かれます。

 しかし、子どもはとっくに起きているというのが現場での実感です。

 いまではインターネットや携帯電話・スマホなどの進化とともに、商品としての性の情報も氾濫し、子どもであろうがなかろうが際限なく受け取ることができます。

 だからこそ、ますます身近である家庭や学校で、早い時期からしっかりと語り合うことが大事だと感じています。

 

●HIVに感染した人は家族に話しているのか? 

 

 HIVの感染経路はそのほとんどが性行為によるため、HIVに感染した人で家族にそのことを話せるかどうかは、日頃から性について話ができる関係かどうか、性について偏見をもっていないかなど、家族の考えや態度に受け止める度量と柔軟さがどれだけあるかに関わってきます。

 HIVに感染しても早期発見・早期治療を行なえば入院・服薬をしなくても十分にそれまでの生活を続けることができます。

 しかし、完全に治すことはできないという意味では命にかかわる病気です。

 そんな病気を抱え、さらに偏見や差別を受ける不安を常に抱えながら、同居している家族に感染していることも治療薬を飲むことも隠している人の話を聞いていると、そんな家族関係とはいったいなんだろうと考えさせられます。

 

●中学生と性について話すとき念頭に置くこと 

 

 性は、人が生まれてから死ぬまで誰もが一生付き合うものです。そして人は死ぬまでに性に関しても、さまざまなトラブルやアクシデントにあいます。

 思春期でも特に中学生の時期は、人生のなかでも性的に大きな変化の起き始める時期で、この頃から性に関わる問題に直面する機会も急激に増えます。

 ですから、トラブルにあわないためにはどうしたらよいのか、アクシデントが起きたときにどう対処したらよいのか、つまり性に関わる問題への「予防」と「ケア」をこの時期にしっかりと教えることが大事だと思っています。

 ●性暴力の深刻さ

 

 PTSD(心的外傷後ストレス障害)は、第1次世界大戦の戦闘参加帰還兵が訴えた精神的疾患の症状によって認知されたといいます。

 そして、性的暴力・虐待を受けた人たちは、戦闘参加帰還兵と同じ症状を訴えるといわれています。

 また、小児期のいじめや虐待の体験は、思春期や成人期になってからの精神的疾患と深くかかわり、体験した年齢が低ければ低いほど、影響は大きくなるともいわれています。

 実際に、10代に性的暴力を受けたり性的嫌がらせで精神的ショックを受けたため、その後、数年、数十年にもわたって苦しむ人の相談を受けることもあります。

 その人たちのすべてといっていいほど、被害を受けないための予防について教えられていませんでした。

 そして、被害にあってからも、家族にも言えず、専門的な対応・治療も受けられず一人で苦しみ、自暴自棄になったり自殺を考える人も少なくありません。

 家族が日頃から性や性暴力の被害者などに対して否定的な発言をしたり、話題を避けているとなおさらです。

 これらの被害を防ぐためには予防教育が必要ですが、性について話すこともあるため、大人が子どもに話すことをためらう声も聞かれます。

 しかし、被害者は家族だからこそ打ち明けにくく、気づかれないように普段と変わらないようにふるまう傾向があります。

 つまり、たとえ同居している子どもが被害にあっていても、知らないで何年も同居している家族が実際にいるということです。

 被害者を次々と目の前にすると、

「あと何人の子どもが被害にあって苦しんだり、あるいは誰の子どもが被害にあえばおとなは行動するのか」

と聞きたくなります。

 

●性にかかわる「予防」と「ケア」 

 

 予防のためには、自分の思春期を思い出しながら、「こんなことに注意するのよ」と言うのもよいでしょう。CAP(子どもに対する暴力防止教育プログラム)が行う研修などを親子で受けるのもよいでしょう。

 そして、「何があろうとも、自分があなたを支えていく」という強いメッセージを言葉と態度で示すことです。

 また、被害は早期に発見し、早期に対処するほど、本人の苦しみをより早く癒すことも可能になります。ですから、親や保護者は子どものようすに少しでも気になることがあったら、ストレートに『誰かから暴行されたり、体に触られたりしたの?』と聞いてみるのがベストです。

 そのためにも、常日頃から、子どもが何でも話せるような開かれたコミュニケーションの回路を作っておく必要があります。

 成長していく子どもを保護者がいつまでも見守ることができるわけではないのですから、子ども自身が自分の体と心に何が起き、どんな行為でその結果として何が起きるのかを正しく知って、予防する方法を身につけなければ、自分で問題が起きるのを防ぐことができないと考えます。

 また、予防方法を知っていても、相手との関係で言い出せなかったり、実行できなかったりすることもあるので、「イエス」と「ノー」をはっきりと言えるトレーニングやコミュニケーション能力を身につけることも必要です。

 そして一方で、こんなに準備やトレーニングをして用心しても、病気になったりさまざまな暴力を受けてしまうことも残念ながらあります。そんなときには、一人で抱え込むのではなく、すぐに身近な大人に相談して助けを求めることなど、「ケア」についても教えなければなりません。

 子どもだけでなんとかしようとして、解決の時期を逸したり問題が長引いたり取り返しのつかないことにもなりかねないのは、性的な問題についても言えます。

 そのために、大人は子どもに対して

「いつでも性に関わることや話しにくいことでもストレートに話してほしい」

というメッセージを日頃から伝えておかなければならないのです。

 そして、大人自身、うろたえず偏見を持たず、いつでも子どもの声に応えられるように、性についての知識や情報を集め、自分自身の性についてもじっくり考えておくことをお勧めします。

 

 

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